2015年11月15日日曜日

名誉毀損で訴えられている松崎いたる区議が反訴(2)

前回の記事で、松崎いたる区議が反訴したこと、また、名誉毀損の対象としているWeb記事の出版社や記者を訴えるのではなく、インタビューを受けた阿部博士を訴えていることを書きました。今回は反訴状に対する答弁書の中身を見てみましょう。

まず、「情報提供者に対する名誉棄損に基づく損害賠償責任の原則について」という章で、そもそも、取材した側(出版社や記者)ではなく取材された側(阿部博士)が責任を負うのが妥当なのかという点を論じています。答弁書が引用している反例部分は以下の通りです(赤字は私がつけたものです)。
・・・公的機関による公式の記者会見を通じた情報提供の場合を除けば、出版社による裏付け取材や独自の編集作業による情報の取捨選択等の過程を経て記事が作成されるのが通常であり、被取材者としても、その発言内容がそのままの形で雑誌に掲載されるとは予見していないのが通常である。したがって、仮に被取材者が、取材側の雑誌出版社に対して第三者の社会的評価を低下させるような発言をした事実があっても、その発言行為と、その発言を取材資料として編集された記事の公表によって生じた第三者の社会的評価の低下との間には、原則として相当因果関係が欠けると解するのが相当である。」
(東京地裁平成11年7月19日付判決,以下「判決①」)
やはり、仮に記事に名誉毀損に該当するような内容が載っていたとしても、それによって取材された側が責任を負うことには繋がらないようです。
答弁書では、さらに詳しく、上記の原則に対する2つの例外事項について論じています。
ただ、この原則にも例外が認められ、第1に、「出版社の取材を受けた者が、取材における自らの発言をそのまま雑誌へ掲載することについて、あらかじめ出版社と意思を通じた上で、取材において第三者の社会的評価を低下させる内容の発言をしたというような特段の事情が認められる場合においては、被取材者の発言と当該記事の掲載によって生じた第三者の社会的評価の低下との間に相当因果関係を認めることができるというべきである。」 (判例①から引用:下線部は反訴被告代理人) とされている。
第2の例外として考えられているのは、「取材に対する発言が、取材当時、情報提供者が置かれた立場を考慮してもなお著しく不当であること」が挙げられている (判決②から引用:下線部は反訴被告代理人)。
上記の2つの例外事項についても、今回のケースは該当しないと論じられています(ここでは割愛します。興味のある方は答弁書を読んでみてください)。
以上の検討から答弁書では、責任について以下のようにまとめています。
ウ まとめ
以上のとおりであるので、情報提供者である反訴被告の情報提供と、これを日経BP社が編集して公表した記事によって反訴原告において生じたとする社会的評価の低下 (この低下そのものが存在するか否かの詳細は次項で論ずる)との間には因果関係が認められず、反訴被告の責任は発生しない
さて、答弁書では、もう一つ論点が挙げられています。「本件記事の内容が反訴原告の社会的信用を失墜したとは認められないこと」という章で述べられています。

阿部博士側は、日経ビジネスオンラインに載った問題とされている内容について、「反訴被告としては、取材に応じてすでに噂として流れていることを伝えたに過ぎず、その内容がそのまま報道されるとも考えていなかった」と答弁書で述べています。答弁書には、その噂が実際にインターネット上で公開されていた証拠を提示しています。

以下のブログ記事(コメント)がそれです。日経ビジネスオンラインの記事が公開される約1年前に問題にされたのと同じ疑惑を記事にしています。松崎いたる区議はこの記事が書かれたのを知っていたにも関わらず、この記事については訴えることをせず、後になって出た日経ビジネスオンラインの記事について訴えたのです。たいへん不自然な対応と言えるでしょう。









以上

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