2014年12月21日日曜日

板橋区のホタル生息調査の報告書の誤り

これまで、2014年1月27日に実施された板橋区のホタル生息調査の問題を指摘してきました。今回はその報告書の内容に含まれる問題点を取り上げます。

調査報告書は以下に公開されています。
http://www.city.itabashi.tokyo.jp/c_oshirase/059/attached/attach_59497_1.pdf
板橋区ホタル生態環境館におけるホタル等生息調査報告書
平成 26 年 1 月 (株)自然教育研究センター

この報告書に含まれる3点の問題について説明します。

調査の実施時期と方法の間違い

夏近くまで待って、岸辺に上陸する幼虫数や羽化した成虫数を数えれば、ホタルを傷つけずに済んだのに、わざわざ発見の難しい冬の時期に幼虫の生息地であるせせらぎの川底を踏み潰しホタルを傷つける方式で調査した問題点については、すでに ここ に述べました。

ゲンジボタルの体長推定の間違い

調査を現地で見ていたボランティアやスタッフの話によると、調査に入った区の管理職がホタルの体長を1センチ位と指定していました。幼虫はもっと小さいので、スポイトを使って探すべきだとボランティアやスタッフが進言しても聞き入れられなかったそうです。
以下は、その時に撮影されたビデオからの音声の書き起こしです。
撮影者「スポイトで検束しないと、あの幼虫って小ちゃいんで」
資源部部長「小さいってどのくらいなんですか?」
撮影者「1ミリくらい…だから」
資源部部長「それは卵から孵化したばかりの頃でしょ。だってもう来年(来月)上陸…動き出す時期なんですよ。」
撮影者「…検束とかはスポイトじゃないとヤバイんじゃないですか?」
資源部部長「だって大きいんですよ!だって、あの卵から生まれてすごい何ミリのね!そういう小さいのはそうかもしれないけど。それはやってるでしょスポイトで!」
撮影者「スポイトでやってますよ」
資源部部長「今はもう2月3月。3月くらいからは動き出して上陸準備にはいるような」
他者「3月って!!」
資源部部長「いや2月2月!!」「普通はもう1センチぐらいでしょ」
しかし、この体長1センチ位という推定は正しかったのでしょうか?
この推定根拠は、報告書のP6に記載されているので、引用します。(赤字は引用者による)
調査時期については、ゲンジボタルの生態を考えた場合、3 月中旬~4 月に調査を行うことは、幼虫が上陸する時期であるため生体への影響が最も大きくなると考えられ不適切であると判断した。
一方、ふ化幼虫を放流した直後(6 月下旬~7 月)の場合、調査対象の生体が小さすぎるため、これも調査には適していないと判断した。今回の調査日である 1 月下旬ごろは、ホタルの幼虫は一般的に15~25 mm 程度に成長しており(図 11)、今回使用したサーバーネットの目合い(0.5 mm)をすり抜けることはなく、目視で発見できると考えられる(※夏期における卵から孵化時の状態で 1.5 mm 程度とされている)。 
明確に15~25ミリ程度に成長している筈だと書いてあります。ここで参照されている図11は、大場信義著「ゲンジボタル」から引用されたもので、以下のようなグラフです。報告書では孵化幼虫を放流した時期を「6月下旬~7月」としているので、調査が行われた1月末は、それから約200日が経過しています。図11で200日経過時点の体長を読み取ると27ミリメートル位に見えます。それ以上は大きくなっていないので、すっかり育ち切った体長だと思われます。
これだけ見ると、15~25ミリという推定は妥当なように思えます。ところが、この推定は重要な要素を見逃しています。

図11:ゲンジボタルの成長

この図11を良く見ると、上の方に「平均飼育水温」が記されており、ゲンジボタルがぐんぐん成長する時期の水温は14℃位から28℃位と読み取れます。

この飼育水温の前提が、ホタル生態環境館と全く異なっているのです。元職員によると、1月末時点では、せせらぎ内の水温は10.5℃に保たれていたようです。図11が前提としている水温よりもずっと低いのです。2月頃から水温を徐々に上げ始めて、夏の夜間公開により多くのホタル成虫が見られるように調整していたようです。ホタルは変温動物ですから、水温が低いと活動が鈍り、成長も抑えられます。したがって、1月末時点では、図11に書いてある体長より、実際の幼虫はずっと小さかったと考えられます。
生息調査では、ホタル幼虫は1センチ以上である筈だという間違った前提を置いてしまったために、本当はもっと小さかった幼虫を全部見逃してしまったのではないでしょうか。

いずれにしても、チェックすれば簡単に分かる筈の水温の前提を見逃したのは、板橋区の重大なミスだと考えます。

ヘイケボタルの体長推定の不在

更に、もう一つ重大な問題があります。ヘイケボタルの幼虫の体長推定をしていないのです。
ヘイケボタルとゲンジボタルでは、体長も違えば、成長の速度も違います。ゲンジボタルとは違った推定をすべきではないでしょうか。しかし、何の根拠も示さず「1センチ以上あるはず」という前提で調査を実施しています。調査にあたっての準備が余りにも杜撰です。これも板橋区の重大なミスだと考えます。


上記で見てきたように、この報告書には様々な問題があります。板橋区は、この報告書を公式に撤回すると共に、問題発生に至った原因と責任を明らかにすべきだと思います。

以上

1 件のコメント:

  1. 読みました。察するところ、調査前に例えば下見や、管理者からの飼育についてのヒアリングとか基本的なことやっていないということですか?このような調査の報告書には、普段の飼育状況について明記されて、 その状況・条件下での調査結果であると明記されるべきもの思っています。しかし書かれていないところを見ると、本当に杜撰だったんですね。これ役所の責任だけじゃなく、当然契約して調査した会社、自然教育研究センターの責任も大きいです。契約不履行そのもです。監査請求ものです。あと施設が区民の財産だと考えたら、器物損壊じゃないですか?

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