2015年2月14日土曜日

板橋区の報告書に学ぶ印象操作テクニック(その1)

板橋区が公開した「板橋区ホタル生態環境館のホタル等生息調査結果と元飼育担当職員の報告数との乖離について(報告)」という文書(以降、「乖離報告書」)を読み始めた時、最初に目に止まったのはP.6の以下の文章でした。一読した時には、意味を誤読して、元飼育担当職員の発言を否定しているかのように受け取りました。しかし、じっくり読むと実はそうではない事が分かってきました。良く考えられた印象操作テクニックだと思います。これについて解説します。
Ⅴ ホタル生息調査時にホタルが流された発言等の検証
1 ホタルが流された発言
ホタル生息調査では、ゲンジボタルが推計 23 匹とされ、この結果が報道等で大きく取り扱われた。また、生息調査当日にホタル 70,000 匹が調査により、流され、潰されたという報道等がなされた。
調査当日は、せせらぎで、まず、サンプリングが行われ、この作業に2時間程度を要した。サンプリング中は、せせらぎの下流のピット前に区職員が付き、ピット手前の網に泥などの付着による詰まりや、この詰まりによる、せせらぎの水
位上昇等を監視していた。
なお、1~2 月におけるホタルの幼虫の大きさは、室内飼育環境で、ゲンジボタルは 15~25mm 程度、ヘイケボタルは、数 mm~15mm 程度であり、目視で確認できる大きさである。元飼育担当職員は、「この時期のホタル館に生息するホタルの幼虫は、体長はせいぜい 6~8mm 程度であり、その胴体の太さは1mm 程度のものである。」と述べ、調査中の濁ったせせらぎで、流されたホタルは、目視することは困難としている。
しかし、生息調査で発見された 2 匹のゲンジボタルは、体長が約 25~30mm であり、概ねこの時期の体長として妥当であった。
この文章の後半に注目してください。後半は以下の3つの部分から成り立っています(括弧数字と赤字は引用者によります)。

  • (1) 1~2 月におけるホタルの幼虫の大きさは、室内飼育環境で、ゲンジボタルは15~25mm程度、ヘイケボタルは、数mm~15mm程度であり、目視で確認できる大きさである。
  • (2) 元飼育担当職員は、「この時期のホタル館に生息するホタルの幼虫は、体長はせいぜい 6~8mm 程度であり、その胴体の太さは1mm 程度のものである。」と述べ、調査中の濁ったせせらぎで、流されたホタルは、目視することは困難としている。
  • (3) しかし、生息調査で発見された 2 匹のゲンジボタルは、体長が約25~30mmであり、概ねこの時期の体長として妥当であった。

最初の(1)では、何も根拠を示さず、いきなりゲンジボタルとヘイケボタルの大きさを決めつけています。根拠となる資料や論文を示して欲しいものです。

それはさておき、「ゲンジボタルは15~25mm程度、ヘイケボタルは、数mm~15mm程度」という大きさの前提条件は「室内飼育環境」だと示されている事にご注意ください。

次の(2)では、元飼育担当職員の体長推定として「体長はせいぜい 6~8mm 程度であり、その胴体の太さは1mm程度」と述べられています。一見、(1)と矛盾する主張のように思われるので、元飼育担当職員の間違いを指摘しているように感じます。ところが、生息数調査が行われた1月27日のせせらぎの水温は10.5度でした。せせらぎには水の冷暖房装置が付いていて、元飼育担当職員が水温を調節していたのです。これはいわゆる「室内飼育環境」よりも、相当に冷たい温度です。したがって、ホタル幼虫の生育も抑えられていたと考えられ、「室内飼育環境」での体長より小さくても不思議ではありません。

つまり、(1)と(2)は前提とする環境条件が違うので、矛盾していません。(1)も(2)も両方と正しい可能性があります。

最後の(3)では、発見されたゲンジボタルは体長が「体長が約25~30mm」と言っています。ところが、このゲンジボタルは、2年前に生まれてそのまま成虫にならずに過ごした終齢幼虫だっと推定されています(後述)。したがって、(1)とも(2)とも前提条件が異なります。どのような根拠で「概ねこの時期の体長として妥当」としたのか不明ですが、(1)や(2)と矛盾していません。

以上のように、この3つの部分を精読してみると、お互い前提条件の違う主張を3つ並べただけであることが分かります(2)の飼育担当職員の主張を間違いだとは言ってないのです。もしそのような印象を持ったとしたら、読者の方が誤読したと言えるでしょう。

改めて、この文章に使われたテクニックを整理すると以下のようになります。

  • 前提条件の違う主張を並べて置き、あたかも同一条件であるかのように錯覚させ、(2)が間違いだと誤読させる。
  • 誤読を気付かせる不都合な事実は記載しない。いわゆる、チェリー・ピッキング。
    例:せせらぎの水温が室内飼育環境よりも低かったこと、発見されたゲンジボタル幼虫が年越しの終齢幼虫であったこと。

実に見事な作文だと思いますが、同時に、実に不誠実だとも思います。行政の出す報告書なのですから、誤読の余地をできるだけ少なく、誰にでも分かりやすく書くべきではないでしょうか。私は、この文章を見て、乖離報告書は不誠実な文書であり、慎重に精読しないと正しく読み取れないと確信しました。

最後に、発見されたゲンジボタル幼虫二匹が年越しの終齢幼虫だった事をしめす会議録を引用しておきます。松島道昌区議のポイントを押さえた質問は秀逸だと思います。

2014.06.10 : 平成26年 区民環境委員会 本文から引用(赤字は引用者による)
◯松島道昌
 ありがとうございます。
 この施設は、板橋を代表する施設でありました。環境の板橋と呼ばれていましたし、そのシンボルになりましたし、数多くの来館者が来る施設でもありました。
 そういうことから見ても、区民にとっても大事な施設であったわけでありますけれども、最も心配なのは、今ある命をどう守るかということだろうと思います。1月27日に行われた調査の結果、推定数はゲンジが23と推定したんですよね、今の発言ではね。これ、ヘイケは推定がなかったということでしょうか。
 それと、そのときのゲンジの幼虫っていうのは、第何齢の幼虫だったんでしょうかね。それと、今、そのときの23匹いる幼虫がまさに成虫になって、これから乱舞をするだろうと思っているわけですが、もう既に時期的には、ニュースでも蛍が飛んだなんて話がありますけれども、現状はどうなっていらっしゃるのか、捕獲ができてるのかどうか、その辺も教えてください。 
◯環境課長事務取扱資源環境部参事
 報告書の中では、何齢幼虫というのは記載はしてございませんが、業者によりますと今回見つかった幼虫につきましては越年というんですか、前年の年に成虫にならなかった幼虫だと聞いております。体形的には終齢幼虫ではないかと聞いております。
 2匹見つかりましたので、計算すると二十数匹という形になりまして、現状ではせせらぎで、まずことし初めて、6月1日にゲンジボタル1匹、雄が見つかりました。6月7日にせせらぎでゲンジボタルの雄が2匹、雌が1匹です。合計、せせらぎにおいては現在、雄が3匹、雌が1匹、実際には卵をとるための採卵箱というものがあります。大体こんな大きさなんですが、そこの中に入れて卵を産んでいただくことに期待しているところでございます。
 それと、ヘイケボタルにつきましては、同じく6月7日に、飼育室の皆さん、一般の方が立ち入らない大きな水槽あるところで、ヘイケボタルが雄雌1匹ずつ見つかっております。これについても、採卵箱に入れて卵を採取するよう、今準備をしているところでございます。
 あと、調査で見つかったのはゲンジボタルだけでございます。
以上












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